改めてゲー音部のみなさん、当日来場してくださった皆さん、ありがとうございました。
今回はドラムとベースがいない3人の編成とはいえ、このバンドにとっては10年ぶりのライブということになる。来ているお客さんの目当てはゲー音部の演奏なので、僕らにそこで何ができるかと言ったら、中途半端になったりせずに、このバンドらしい音を出すことだ。
実は、以前「ゲーム音楽のメタルアレンジバンド」と呼ばれるのが嫌だった時期がある。
「メタルアレンジ」って、常にツーバスが鳴っていて原曲を倍のテンポにしてあったり、ギターのバッキングがパワーコードとルートの刻みだけ、さらに頻繁にメタルの有名バンドの「引用」が入るというイメージがあった。つまり、ANIMETALの手法である。
特に大げさな言い方ではないと思う。だって巷にあふれる「メタルアレンジ」と言われるものの大半がそうだったんだから。
それが悪いというのではない。だって僕もANIMETALはすごく楽しんで聴いたし、メンバーも他のバンドをやっていた頃から大好きなアーティストだ。
ただ僕は、メタルというのはディストーションギターとツーバスではなく、各自の楽器を「ギリギリまで無理して弾く精神」と、「俺の生き様はこれしかねぇ」という暑苦しさだと思っている。だから、昔はメタルと言われて、聴く前から「こういうやつでしょ」と判断されるのが嫌だった。しかし今は、どう聴かれるか、どう受け取られるかでオタオタしていたら、そんなバンドはダメだと思う。
そんなわけで今回は変化球ではなく直球で、うちのバンドはこうですよという選曲とアレンジにした。
当日の朝は9時半に川口の市民ホールフレンディアに着き、ゲー音部首魁の麺さんにあいさつをしたあと、駐車場と会場を機材運びのためにボブと2人で4往復した。モニタースピーカーとスタンド、ミキサー、パソコン、てまりんが弾くキーボードやそのスタンド、マイクスタンド、自分の楽器とエフェクター、ケーブルたくさん、売り物のCDなどなど、とにかく荷物が多かったのだ。
そうこうしていると、あっという間に開場時刻になってしまった。ゲー音部の皆さんが音出しやリハをやるのかなと思ったら、そんな時間は無さそうであった。
間借りしている僕らがリハをバッチリやらせてもらうわけにもいかなく、その場で一応音が出るかだけを確認した。ちょっとしか曲をやらないわけだし、本番でやる曲を今やってもなぁ…と思い、適当にTo Make the End of Battleをボブと合わせていたら、どこからかキーボードで合いの手を入れる音が…。
さば夫さんだー!
しかもキーボードでなくてピアニカみたいなやつだ!カッコいい!うちは夫婦でさば夫さんファンなのでとても嬉しかった。他にもその場でサイバーコア(PCエンジンの昆虫シューティング)の1面の曲を弾いてもらえたりして、ああ、ゲー音部とのライブなんだ!という気持ちが高まってきたのであった。
当日はゲー音部の第1部 → 第2部 → パラメキア帝国 → ゲー音部vsパラメキア帝国 という流れになった。すごく良い時間に配置してもらえて、間借りの分際でとても恐れ多い。
ギタリストのろみさんや、トランペットの方が持参したステッカーをすぐさま楽器に貼ってくれていて、とてもうれしかった。
このステッカーは職場に絵が上手な人がいて、ちょっと頼んだらこんなに素敵なものを描いてくれたのだ。「ファミコンですか……おばあちゃんちにありました」というくらい若い人なので、パッケージとか画面の絵を見てもらって、「これらのキャラクターが集まって、めいめい楽器を持って演奏してる感じでお願いします!」と言って描いてもらった。
(12時の位置から時計回りに中島&弓子、チェルノブ、ミロン、魔人、ウパ、サンドラ、せんせい、ハーゴン。中央はヘッケル・ジャッケル)
さて、11:30にゲー音部の第1部が始まると、その場リクエストに応えるレパートリーの多さ・柔軟さとお客さんを引き込む盛り上がりであっという間にゲー音部の雰囲気が出来上がっていた。
ゲー音部の演奏は、その場で合わせた曲であっても破綻することがない。参加している人は場によって違うし、その日に偶然誰の音が大きかったとしても「ゲー音部の音」になっている。それは、参加しているみんなが「好きなゲームの音楽を合奏する」という楽しみに満ち溢れていて、その思いが一致しているからこそ。参加者がお互いを信じている音になっている。それはこのサークルの一番の魅力なんじゃないかと思う。
僕らの出番は意外と早くやってきた。ふつう対バンのライブに出ていると、一緒にライブをやるバンドに別に興味はなく、早く俺らの番来ないかなー、とか思っているけれど、どんな曲がリクエストされるのか、どんな音になるのかと楽しんでゲー音部を聴いているとすぐ時間が過ぎてしまっていた。
自分のギターをつなげると、やはり緊張してきた。まあ僕が緊張しやすい体質というのもあるけれど、この感覚はマズイと思った。指がバタバタ勝手に動くし、出番前に自然と曲の一番難しい部分をテンポをずっと早めて弾く…みたいな悪い癖が出てきた。
緊張した時に自分がどうなるか、というのは今回いろいろ想定していた。たとえば指に汗をかくときは、指に弦潤滑剤を吹くようにした。そして、指がバタバタせわしなく動くときは、ヘッドホンで1曲目のテンポを聴いて心を落ち着けるのだ。考えたりメンタルトレーニングの本を読んだりした甲斐があり、どうやら1曲目はおだやかな気持ちで弾けそうだった。
そうこうしていると、てまりんが会場に着いた。
実は今回、メンバーが全員そろった状態で曲を合わせるのは、本番が最初である。
というのは、うちに子どもが二人いて、二人ともスタジオで大きな音を聴かせるわけにはいかないし、特に長女の方は積極的にジャマしにかかってくるので、一度も三人でスタジオに入れていないのである。
家の近く(車で20分ほど)のスタジオを借りて、そこにまずボブとてまりんが行って合わせ、僕が家で子守りをする。そして、てまりんだけスタジオを出てきて家にもどり、僕とバトンタッチして、次は僕とボブが合わせる…そんな方法で練習をしてきた。(本番のこの日だけは僕の母に子ども二人を見てもらった)
見ると、てまりんはゲー音部の方にキーボードの前にマイクスタンドをセッティングしてもらっている。
あれれ?マイクは僕がMCに使うことになっていて、しかも僕とボブの間にキーボードが配置されるはずではなかったの?
2曲目のファイヤーエムブレムはキーボードなしで、歌のみになるはずなのに…
そう思って、てまりんに聞いてみると「え?こうするんだよ、言わなかった?」みたいなことを言われた。本番前に初めて知った。
キーボードの音を出してもらうと、明らかに音が大きすぎる。なんだこれ…ギターと合わせても、ものすごくキーボードが大きい。
ミキサーの方で下げてもらって、ようやく曲を始められるようになった。大丈夫なのか…
ダメだった…。
1曲目はFirst Step Towards Wars。自分の音が小さすぎて聞こえない。
終わった…。
一体僕はなんのために練習してきたんだ。お客さんも何の曲やってるか分からないよ。
たぶん間違えずに弾ききったけど、そういう問題じゃない。自分の音が聞こえないんだから。
一曲目の終わった瞬間に、ボブに「ぜんぜん聞こえない。僕の音上げていい?」と聞いた。ボブもおかしいおかしいと言っている。全然リードギター上がらないよ…とか言って。
もうだめだ…。お客さんに謝って帰った方がいいんじゃないの?メタル界隈では本当に謝って帰った人とかカレーが辛いからライブを飛ばした人がいるぞ…と思っていたらボブに、とりあえず色々見てみるから、MCで場をつなぐように言われた。
一所懸命練習してきた曲がむちゃくちゃなことになり、頭が真っ白な状態でMC……
もう何をしゃべったか全然覚えていない。たしか、昔話をしたような気がする。
そんな時に後ろからボブの「あー、リードギターとバッキングのギター、チャンネル間違えてた!」という声が聞こえた。つまり、伴奏の方がでかく、メロディが小さいまま1曲目を終えてしまったということだ。
今回は音響面はボブに任せていて、何も口出ししてこなかった。僕はぜったい練習をしている時間を確保しなきゃいけないから、トラック作りから音量バランスまで全部ボブがやってくれたのだ。
チャンネルを間違えていたと聞いて、一瞬「こいつライブ終わったらモヒカンにしてやる」と思ったけど、ここまでずっと頑張ってきて、ライブの本番でテンパってトンチンカンなことをしたとしても、そんなに責められないなと思った。
自分の音が出ると思って安心して迎えた2曲めはファイヤーエムブレムのメインテーマ(ボーカルバージョン)。イントロを聴いて思った。ギターがでかい!
というか、僕は歌が入るのを初めて聞くのだ。ボブは歌と一緒に合わせていたけど、どうなんだ、大丈夫なのかマイクの音量は…。
ダメだった…。
ぜんぜん歌が聞こえない。
…終わった。
そりゃそうだよ、マイクの音量が小さかったらこんなにギター二本の音量がでかくて、歌なんて聞こえるはずないよ。やっぱりボブはライブ終わったらモヒカンになれ。それに、てまりんも何でわざわざ弾き語りにするんだよ。よけい歌が聞こえないよ!ライブ終わったらワカメちゃんカットになれ。帰りにその足で床屋さんに行け。
このまま音がめっちゃくちゃなまま終わるのか、なんのために練習や編曲してきたんだ…。僕はミキサーの何をどこに入れているか分からないから、曲を流したまま音量を変えるわけにいかないし!
そう思っていたら、うちのミキサーに、すすーと手が伸びて……なんと歌が聞こえるように、キーボードが適切な音量に…
さば夫さんだー!
マジ救世主。本当に助かりました。その後の曲でも音のバランスがめちゃくちゃなのを度々直してもらってしまいました。
まあその後も、3曲目のビッグブリッヂの死闘の最初のAメロでよくドラムが聞こえずに身失ったり、四魔貴族バトル2のキメの部分で誰か間違えて一瞬めっちゃくちゃになったというのはあったけど、それ以外は無事に進んでいった。(これはドラムが打ち込みで、あまりよくスネアが抜けなかったので、拍が表なのか裏なのか分からなくて途中復活が難しかったのもある。グラディウスで面の途中で死ぬようなものだ。)
何しろ今回は緊張が一番の敵で、上がった自分を想定するために、家に自転車で急いで帰って心拍数だけ上がったまま、指の方はウォーミングアップもしないまま曲に合わせて弾いたり、変な練習を重ねただけあって本番はそれほど緊張せずに弾くことができたと思う。
想定外にヒドかったのは、曲間のMCである。もう何をしゃべったのか、うわのそら過ぎてほとんど忘れたが、確かひどいことをたくさん言ったような気がする。
最後はマトーヤの洞窟でしめた。以前に活動していたときもラストはこの曲という感じで定番になっていた。MCでは手拍子を求めたくせに、途中で拍子が変わり、もとの拍子に戻ってまた手拍子ができるかなと思ったら変拍子が一瞬入ったりと、意地悪この上ない編曲だ。なんだかこの曲をやったら、やっとパラメキア帝国としてライブができた気持ちになった。
僕らのライブが終わり、その日一番楽しみにしていた共演の部に移った。
ゲー音部とパラメキアからインスト1曲、歌もの1曲ずつを出し合って、計4曲を合わせる手はずになっていた。
まずはゲー音部が「アトランチスの謎」をやって、それから合同曲をやることになった。麺さんが「その方が乱入っぽいでしょう」と言い、僕も確かにそうだと思って一曲は横で聴いていた。聴きながらどうやってカッコよく乱入するかなと考えていると…
ボブがゲー音部にまざって楽しそうにアトランチスの謎を弾いている……おどれそれじゃ乱入にならんじゃろうがー!わりゃシゴウしたるぞ!(はだしの弁)
その頃には緊張も解けていたので、ゲー音部の曲を楽しみに、できるだけたくさんの曲をリクエストしたいお客さんをしり目に、好きなことをしゃべってしまった。
やったインスト曲はMADARAとFF2のバトル2。僕はこんなに多くの人の中で演奏するの自体初めてで、その日一番気持ちよく弾けたように思う。ひとのドラムって最高!メイジソさんのパーカッションとchihiroさんの指ドラムが噛み合っていて、お客さんもすごくのっていたと思う。
歌ものはMotherのBein' Friendsと、迷宮組曲のボーカルバージョン(麺さん編曲)。てまりんが真ん中で歌っていたので初めて表情が見えた。緊張しているのかなと思ったけれど、本番前に声出しが全くできず、思うように歌えなかったようだ。
そういえばいつもは歌う前に、周りがびびるくらい大きな声を出して準備をするのに、なんで…と思ったら、遅れて行って(ぎりぎりまで子どもを見ていたため)、ゲー音部のステージも全く見ていなく、どういう雰囲気か分からず声出しをするのを遠慮したようだ。
(かわいそうなので、今度ゲー音部のふつうの活動に遊びに行ってもらおうと思う。声も思い切り出せるし、鍵盤も僕と違って練習しないでもどんどん弾けるのでアンサンブルの役に立つと思う)
うちのバンドが去った後にはゲー音部の看板ともいえるソルスティスやレイフォースなどの楽曲を挟み、Duddy Mulkで大盛況の幕を閉じた。僕らのバンドにとっては、復帰の第一歩となり、また微力ながらも楽しいイベントを共催でき、大きな前進となる1日だった。
打ち上げを経て家に帰り着き、なんとなくファイナルファンタジーI・II全曲集を聴いてみた。
あのころ、街の外に出てザコ敵と戦うだけでものすごくワクワクしたし、雪原の洞窟でヨーゼフが死んだ次の日は学校でもさわぐ気になれなかった。体験と音楽が密接に結びついていた人間にしかできない編曲や、出せない音があるんじゃないかと思う。それを追求する仲間がいるのって、すごく幸せなことだ。