2019年10月26日土曜日

ゲー音部DTM課のコンピレーションアルバムvol.5を全曲レビュー

 11月3日に川口市で行われるレトロゲームイベント、「ゲームレジェンド」で、ゲー音部DTM課によるCDが発表される。第五弾となる今回のテーマは「令和に残したい、昭和のゲームミュージック」とのこと。
 このCDにパラメキア帝国として1曲を提供させていただいた。個人的なことを言うと、普段子育てや仕事にかかりきりで僕などはなかなかゲー音部の活動にも参加できず、また自分のバンドのアレンジもほんの少しずつしかたまっていかない状況だ。でも録音したもので参加、ということであればうちのバンドも少しは色を添えられるかな、と思ったのだ。普段ハードロックとかメタルを聴かない人にも聴いてもらう貴重な機会になるし。
 この団体の活動に参加している人はみんな感じていると思うけど、ゲー音部というコミュニティがあって、毎月音を出せて、そこには楽器の上手な人も始めたばかりの人もいて、それぞれ楽しくやっている……それはすごく特別で大切なことだ。その中には時間を割いてみんなのために主催をしたり、こうやってCDを作ろうとしている人がいる。ならばテキトーにちょちょっと録って、「こんなんできました〜」ではなくて、できる限りのものを録りたいな、と。
 
 さて、CD自体の話に戻ろう。いきなりすごく乱暴なこと言うけど、ゲームミュージックを聴く人には令和だとか平成だとか昭和だとか関係ないと思う。だって時代を問わず、心の中にそれぞれの魂の一曲が鳴り続けているんだから。
 ここで大切なのは「どう鳴っているか」じゃないだろうか。古いゲームであれば色んなハードに移植されたものもあるし、サントラやアレンジCDなどで数バージョンが存在するものもある。いずれの瞬間にその人に曲が刺さったのか、そして頭の中でどんな風に完成されたのか。これに僕はとても興味がある。僕みたいなメタル者であればメロディはエレキギターで聞こえたかもしれない。PSGやFM音源が魔力のような音を作り、そこに魅了された人もいるかもしれない。こうやって人が集まってそれぞれ好きなゲーム音楽をやるという機会に、その人の胸の内にある長い時間を経て作られた音と思い出が形を持つのだ。こんなに素敵なことが他にあるか。いや、ない。
 
 というわけで、マスタリング担当の麺さん、まとめ役ろみさんから頂いたサンプルの音源をもとに全曲について勝手に思ったことを書き散らそうと思う。なぜこんなことをやるかというと、ゲー音部の人たちは、まず作った時点でやりきった感があって、なるべく多くの人に聴いてもらいたいとか、こだわったところを分かってもらいたいなというのをあんまり前に出さないように思えるからである。
 じゃあ、特に音楽的な嗜好も幅広くなく、それほどゲーム音楽にも詳しくない僕が書いて、しかもこんな辺鄙なところでブログに書いて意味があるのかというと、たぶんあんまり無いと思う。でもいい。書く。なんとな〜く聴き流して、「ふ〜ん、こんな音もあるよね〜」くらいでは済まされない熱さがこのCDにはあるから。
(※なお、知らない曲や音のジャンルやアレンジの元ネタ等が本当に多く、さらに勝手なことばかり言ってるのでシロートの戯言と思ってください)


 1:カセットビジョン&スーパーカセットビジョンメドレー (カセットビジョン、スーパーカセットビジョンより / 昭和56~61年) by 麺
 のっけからエポック社。しかしオープニングとしてこのアルバムのスタンスを語るにふさわしいメドレー。キレの良いクリーントーンのエレキギターに乗って流れるメロディからは、新しい時代にこの音楽を残すんだという気概が伝わってくる。だって、古い曲にもこんなアレンジができますよどうですか?ではなくて、ゲームというものが持つ一番根っこにあるような、電源を入れた瞬間にワクワクして何やら怪しいところに連れていかれるフィーリングが詰まっているから。なお、僕がやったことあるゲームは熱血カンフーロードのみ。乱闘プロレス入れてほしかった!

 2:ケイブシャークなんてこわくない (ドラゴンバスター / AC 昭和60年) by 鼎
 男らしいゲームミュージックロックバンド「鼎」さんのアレンジ。この突き抜けた爽やかさ!パラメキア帝国のような日陰者には一生出せないサウンドです。ギターの音がオルタナティブ的ですごくかっこいい。モテそう。Twitterで言っていたけど、この方たち、メンバー全員ラグビー部出身らしい。どうりで…。うちなんて、水泳部と弓道部と古典音楽鑑賞部だからね。もう生まれからして違う。あ、音楽のこと話しましょう。イントロから遊び心にあふれているけど、一気に曲が流れて1分くらいで終了。潔い。あとアウトロの再現度が最高。あれってクロービスの足音なの?ダンジョンの中では鳴らないけど…

 3:メトロにのって (メトロイド / FCD 昭和61年 他メドレー) by チャプ吉P
 メトロイドやスーパーマリオ3など複数曲のメドレー。エレキギター、ベース、バンジョーかウクレレ?笛?の生演奏が入ったサウンド。ブリンスタの浮遊感がいいな〜。元のゲームもリズムがガチッとしてるのにメロディの音がフワフワしてて宇宙っぽさあるでしょう。その後のスマブラとかの同曲じゃなくて、ディスクシステムで鳴っている音が下敷きになっている感じがあります。その中でベースだけ暴れまわっている。お一人で演奏しているであろう曲だけど、これはすごくゲー音部っぽい。1曲1曲に力が入っていながらメドレー全体で見たまとまりや大団円的な終わり方もいいですね。

 4:人の世の夢 (邪聖剣ネクロマンサー / PCE 昭和63年) by Sugi
 4曲目でネクロマンサー…。このCD買った人ぜったい「とんでもないものを手にしてしまった」って思うだろうな。選曲はあのオープニングの不気味な曲で、メロディはベースの生演奏。もともとゲームのイメージがギーガーで、もうELPを連想するじゃないですか。で、この曲はなんとなくTarkusの17分くらいのところのあのバカみたいなメロディを、すごく深刻に暗くした感じしないですか。そして、Sugiさんがベース弾いているともう全体がプログレッシブに聞こえる。こういうキマってる人って、たぶんパーティにあのスゲー役立たずの女の魔法剣士みたいなやつを選ぶんじゃないかな。勝手なこと言ってるけど。

 5:After Burner with RYM2612 (After Burner Ⅱ / AC 昭和62年) by ろみ
 ここに来てゲームミュージックファンはひと安心の正しいアレンジの登場!だって前の4曲が言うなれば魑魅魍魎の世界だから…。メロディックでノリ良く、FM音源への愛とリスペクトが感じられるサウンド。このゲームをメガドライブでやると効果音うるさすぎてせっかくの曲があんまり聞こえないでしょう。「こう聞こえてほしかったな」っていう音をいま聴けるってことだと思う。あのタイトルの持つスピード感と爽快感がこだわった音に詰まっている。すごくクリアな音質で迫ってくる中に、ギターリフが大きめに入っていて、やっぱりろみさんだなって思う。

 6:大進撃の獣王 ~Attack on Rygar~ (アルゴスの戦士 はちゃめちゃ大進撃 / FC 昭和62年) by おのさめゆーき
 これまたカッコいいアレンジ。イントロすごい!原曲とこのゲーム好きな人でこれが嫌いな人ぜったいいないでしょう。夕日が見える。そして英語のナレーションが映画っぽくてすごくカッコいい。これご本人がしゃべっているのかな?ブレイク部分も雰囲気あるし、シンフォニックなサウンドも相俟って、ハリウッド版アルゴスの戦士って感じ。主演は誰だろう…ヴァンダムか?それじゃ実写版スト2か。
 
 7:Double Dragon Dance (双截龍 / FC 昭和63年) by あだっち
 しょーりゅーけしょーりゅーけん!のドラゴンダンスじゃなくて、ダブルドラゴンのダンス。タイトル画面でしか流れないのか〜と思ったら最終面で再び流れてブチ上がるあの曲!ファミコンのオリジナルっぽい音とアレンジした音が行き来するような構成で、ファミコン版は一人プレイしかできなくて全然ダブルじゃねえ!って思うけどこの曲ならダブル的に満足。もはや何言ってるかわからん。メロディックなソロ含めて最後まで飽きさせない編曲で、終わった後にみんな…あれ〜もう終わり?もっと聴きたかったってなるよね。(今回は全19曲で盛りだくさんなので、ひとり4分程度という縛りがあったのでした…)

 8:RHYTHMICAL-KNOCK-OUT! (マイクタイソン・パンチアウト!! / FC 昭和62年) byバストラ
 間違いなくこのアルバム随一のお洒落編曲!あのストレートで男らしいメインテーマがこんなにダンサブルに大人な雰囲気になるとは。とはいえ、メタル者の僕には何をどう混ぜてどう料理したらこうお洒落になってるかさっぱり分かりませんので、クラシック者のうちの相方に聞いてみたところ…「おお!おしゃれ!」とのことであまり変わらず残念。これは、リトルマックがデビュー戦で一勝をあげ、ラスベガスで金髪の女子を連れて調子に乗ってるシーンの曲…って感じ?「ガハハハ酒もってこーい」「おいマックその辺にしとけよ…」「うるせー!」で、次の試合でチーン…みたいな。また超適当なことを言う…

 9:Over Heat (グラディウスⅡ / FC 昭和63年) byさば夫
 ギターリフばりばりのハードロック!要塞面の高速スクロールが眼前に現れるような1曲になっています。本家が出してるシューティングバトルとかもこんなカッコいい編曲だったらみんな幸せだったのにねぇ…。ギター弾きの視点でいうと、こういうバッキングとかソロってすごくアイディア満載で参考になります。そして爽快感とスピード感にあふれた原曲をゲーム音楽ファンが最も心地いいと思えるさじ加減でアレンジする玄人の技。こういうファミコンの音で既に完成されている曲にあえて挑戦するところがさば夫さんだよな〜。

 10:Popping Mappy Land!! (マッピーランド / FC 昭和61年) by Zetglan
 EWIプレイヤーのZetglanさんのアレンジ。ノリよく心地よく聴ける気持ち良いフュージョン…と思いきや変拍子バリバリでテクニカル。そしてゲーム中のSEがふんだんに入っていて、思い入れが感じられますね。マッピーランドってレースゲームだった?という雰囲気。カーステレオで大音量で聴きたいですね。でも、ソロの合いの手の「ヘイ!」っていうのがすごく複雑なリズムで入ってるから、どこで入るのか考えて運転してると、とんかつさんを轢いちゃうゾ。
 
 11:OWATTE SHIMATTA (チェルノブ 戦う人間発電所 / AC 昭和63年) by パラメキア帝国
 5〜10曲目はアレンジが正統的にカッコいい曲。ここからはまたトンデモ編曲の世界へようこそ!だ!久々に録ったうちのバンドによる演奏です。ギターのピックアップやアンプ、エフェクターは四十年以上前の(ファミコンより年寄りな)ものをマイク録りしていて、僕が子どもの相手をしている間に連れ合いが歌を録っています。そしてギターソロは録音1発目の荒れくるった感じが気に入ったのでこれでよしとした。あと自分の中で7/8拍子が流行っていて、随所に入れたらこんな曲にNATTE SHIMATTA。

 12:吹奏楽のためのコンボイの謎 (トランスフォーマー コンボイの謎 / FC 昭和61年) by hit4
 これもう、題名からしてずるいでしょ…。なに「吹奏楽のための」とか澄ました顔して言ってるの。しかもイントロ何度聴いても笑うよこれ。ただ、ネタ一発みたいな肩の力が抜けたアレンジでもないし、出オチでもない。かつてこの曲にこれほど真剣に向かい合った人がいたのだろうか。ぜひ生の吹奏楽で聴いてみたい。メインテーマだけでなく、あのジングルやボスの曲、そして最後はエンディング曲!映画のスタッフロールが流れてきそう。これだけ聴いていたらすごい名作ゲームみたいな気がしてしまう危険な楽曲。

  13:押し売りノスタルジック~ファッキンなつやすみ (グラディウス / FC 昭和61年 , 銀河の三人 / FC 昭和62年) by DUST_KUNATT feat. skype場末部
 表示タイトルの中からも数曲が使われ、ネタ的に使われるSEもありと、もりだくさんな楽曲で最後まで気が抜けない。そしてこの一曲で昭和という時代を振り返れるような気がします。銀河の三人は他の曲とのマッシュアップが絶妙にハマっていて楽しいけれどこれは聴いてのお楽しみ。確かにイントロが似た感じ!人民服に着替えたか、もみあげはちゃんと揃えたか〜。ところで佐々木ってだれ!?

 14:The Melancholy of Princess Mariko (カラテカ / FC 昭和60年) by chihitek
 あのカラテカの、囚われのマリコ姫が現れる一瞬のジングルを1曲に仕立て上げる構成力!こんなことやってるの、この人とこのCDだけだよ。それを全力でやるところにこのアルバムの熱さがある。そしてこの曲は何かアンニュイな感じ。かわいそう!すぐ助けないと…って感じではなくて、ハスキーボイスでため息まじりに「ハァ…またあのトゲの門に挟まったの?何年同じことやってるの?」って言われてそう。

 15:SplashWave 61-08Mix (Out Run / AC 昭和61年) by スタッフロールP
 ハイファイで透き通った音質でありながら、あの時代が色濃く表れたサウンド。原曲をずっと愛している人とか、ゲーム自体が血肉になっている人しか出せない音だと思う。イントロのあのフレーズがあとに出てくるところとか、間奏がライブでやったらめちゃくちゃ盛り上がりそうなところとか注目です。インサート音からクリアまで、一曲聴くとゲームをワンプレイしたような気持ちになれるアレンジだと思う。

 16:To Make The End Of Battle (イースⅡ / PC 昭和63年) by  Johan
 あまたのアレンジが出て「こうじゃねえんだよな…」っていう感覚の原因って、やっぱりゲームで聞こえた最初のこの曲を超えられなかったからだと思う。そういう人は何度もPC88の音に戻って、「ああ、やっぱりこれだよなぁ」「何も足さず、何も引かない」って酒飲みのようなことを言ってきたに違いない。しかし、足したり引いたりするけど良いところをそのまま残す!というこのアレンジは原曲を三十年以上聴いてきた人にこそお薦めしたい。

 17:Castle of Doom (ハオ君の不思議な旅 / FCD 昭和62年) by ちゃか
 ゲー音部の誇る熱きドラマーの、これまた熱い一曲。城の中の曲だけど、これ原曲とぜんっぜん違う…よくこんなアレンジ思いつくなぁ。もとは寂しいイメージがあるけど、これはまるでカンフー映画のよう。そしてドラムが当然熱い。こういうアレンジって突然出てきはしない気がしていて、実機で動いていた当時から聞こえる人にはこう聞こえるという種のようなものが曲に潜んでいるんじゃないかと思う。いま形に残そうとしなければ知られずに消えてしまうのだし。

 18:銀のハーモニカ (太陽の神殿 / PC 昭和61年) by まもるもせめるも
 美しい…ハーモニカでこの曲って、本当にハマりますね。この低い音って何だろう。これもハーモニカ?間奏も雰囲気あってすごく良いです。そしてタイトルからして、最初のイースでレアが「お礼に一曲」と言って吹く感じなのでしょうか。この曲で終わっていればアルバムとして最高にキレイだったのに…

 19:ウォーロイド(弾き語り) (ウォーロイド / MSX 昭和60年) by にしかわ
 そして最後がコレだー!!つい前曲の項では失礼なこと書いてしまったけどね、こうあってこそゲー音部なんだよ…。
 このアルバムでは何人かのアレンジャーが、消えゆくものや破壊の美学を表現していると思う。曲が終わると切なくなるものや、ゲームのクリアやエンディングがもとになったアウトロを持つもの。僕も自分が担当した曲ではチェルノブがエンディングで死んでいく場面を入れた。それに引き換え最後のこれは、存在自体が破壊神なんだよ。ただし、この熱いアルバム、この曲じゃなきゃ終われないんだ……聴いた人にはわかる。とにかくCDを手にとって聴いてくれ。話はそれからだ。