あるギターの教則本だか雑誌だかで、「あなたがステージで思い通り弾けないのは何故かというと、失敗を恐れる心があるからだ!」というのを目にしたことがある。当たり前だろうが!
昔、じゃんぷるの最悪に面白くなかったコーナーで、「暮らしの便利帳」ってあったでしょう。「うきわには空気を入れると便利ですよ」とかそういうやつ。ギター講師だかプロだか知らないけど、あなたの言っていることは、じゃんぷるに投稿している小学生と同じレベルですよーだと言いたくなる。それに、悟ったような口ぶりで人の心の持ちように問題があるようなことを言ってるのはヤダよねぇ。
失敗を恐れてばかりいる僕が、自信を持っていこう!というときに思い出すことが二つある。ひとつは、小学校時代の出来事である。
六年生のころ、運動会の鼓笛隊にクラスから何人か選ばれることになった。早めに声変わりして音楽の授業が大嫌いだった僕だったが、なぜか音楽の先生のはからいで小太鼓に選ばれた。そして同じく音楽がニガテな友達の小泉君はグロッケンを担当することになった。毎日放課後に残って練習をしていたのだが、合奏になると小泉君の音は非常に小さかった。はたから見ていても顔がこわばっており、子ども心に「自分は小太鼓だから音階が無くてリラックスできるけど、間違った音を叩く可能性のあるグロッケンは可哀想だな」と思っていた。
そんな時、音楽の先生(定年間近のおばあさん先生だったが、天空の城ラピュタのドーラのような迫力があった)は、小泉君のグロッケンを「ほれ、貸してみな」と言って取り上げた。何をするのかと思ったら、みんなに合奏をさせて、力一杯にたたき出した。そこまでだったら、お手本を見せる普通の指導なのかもしれない。その先生が変わっていたのは、小学生もずっこけるような「絶妙に間違った変な音」をわざと、しかも力の限りでかい音で叩いて、しかも平然とした顔をしていたところだ。
ちょっとぐらい音を間違えようが気にするな、音が聞こえなかったら君がいる意味が無いんだから。堂々とやれ。
…と、そんなことを言葉を使わず小学生に納得させてしまったのだ。ベテラン先生のノウハウの一つなのかもしれないが、がぜん勇気を出して叩き始めた小泉君を見ていたら、僕らにとっては魔法のようだった。
さて、僕がもう一つ思い出すのは、昔から大好きなボーカリストのPVである。
バンドで担当しているのはギターなので、本当は自信満々で弾いているギタリストの映像を見た方が良いのかもしれない。でも、なぜか僕にとっては超絶ギタリストのパフォーマンスより、歌の方がずっと勇気をもらえるのである。特に、以下のような条件がそろったボーカリストが良い。
その1 俺の(私の)表現はこれだ!もうこれしかねえ!という迫力と「つぶしの効かなさ」がある。
その2 誰にもマネできない、または誰にもマネしたいと思われないオリジナリティがある。
その3 内面から満ち溢れてくる何かを外に向かってものすごい勢いで発散しているせいで、ちょっとおかしなことになっている。
その4 歌詞と同じくらいに顔で語っちゃってる。
さあ、音楽をやっている人もやっていない人も是非観て欲しい。きっと俺は俺らしくやっていこうと思えるはずだから。
Cathedral - Hopkins (Witchfinder General)
メタル部門:Cathedralのボーカリスト、リー・ドリアン。
クネクネした動きで一斉を風靡し、なぜか当時のメロデス勢のボーカルも相当影響を受けていた。メタルというジャンルは、たいていボーカリストは全身全霊で声を出し、とにかく一所懸命歌ってますよというのを仕草の中でも見せていくスタイルの人が多いと思う。しかし、彼の場合は声もアクションも合わせて一つの身体表現であり、それでバンドの世界観をあますことなく表現していると言えるだろう。
見所は、魔女狩りの曲なのにイントロから超楽しそうに登場するところ。そして、3:33くらいの、ヒザ曲げジャンプして両手を内側から回すアクション。どうやったらこんなの思いつくんだろう。
Kate Bush - Wuthering Heights
女性ボーカル部門:我らが永遠のアイドル、ケイト・ブッシュ
ライブも凄まじいアクションだしPVもどれも素晴らしいんだけど、とりあえず一番有名なコレにした。まあアクションというか振り付けなんだけど、イントロでなんか変だぞと思わせておいて、フワーと立ち上がって、なんだこれは可愛くみせたいのか変に見せたいのかどっちなんだ!?と観る人をソワソワさせ、0:25で片ヒザが上がるあたりで、「あ…やっぱり変なんだ」と決定的になるのが素晴らしい。そして、0:35で目をカッと見開いて、だんだんこっちに寄ってくるのか!?こえー!となる辺りもいいですよね。
そして、この目と口…。そうとう自信があって、自分のこと大好きで、と思う人もいるかもしれないけど違う。当時の彼女は自分の歌声に自信がなくて、だんだんとこういう、すっとんきょうな歌い方を脱して、後のアルバムではより自然な歌声になっていくのだ。振り付けに関しても、ステージ上で自由に動けないから、全部動きを決めておくためのものだという。この全身全霊のパフォーマンスが、自信のなさをカバーするものだというところも「失敗恐れ者」にとっては心強い。
The Rolling Stones - Start Me Up
男性ボーカル部門:ミック・ジャガー
疑問に思うのは、ミック・ジャガーのアクションが何の影響を受けていて、何をどうしようと思ったらこうなるのか、ということである。
コスチュームもすごい。なんなのこれ、紫の…レオタード!?イントロからビシっとポーズをとって、それが全然カッコよくなくて、そして前に一歩二歩と進んでくるのか!?なんだその不審な動きは!?
この人はもう、すべての動きがキレてるもんなぁ。あと、もうこの顔で正面向いた瞬間に反則みたいなもんだ…。この曲は80年代だから彼も30代後半だけど、なんて落ち着きのなさだろう。多動としか言いようが無いよね。
これらを観ていたら、たとえば僕がライブで1音はずして、うわー何やってんだ大事な音を、みんなにきっと下手だって思われる…とか、あれだけ練習したのに…とか、目の前にお客さんがいて演奏している最中にそんなこと思っちゃってるのがいかにクダラナイことかと分かる。自分が一番好きな音楽を、一番好みの音色で、自由な音量でやっているんだから、その間くらい好きなようにやったらいいんだよね。
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