2016年11月22日火曜日

サウンドテスト0008 Fluffing Moogles 編

 11月19日、ゲー音部によるイベント「サウンドテスト0008」で、僕らのバンドFluffing Mooglesは2番目に登場したのでした。
 人前で音楽をやるというのは僕にとってはすごく特別な機会だ。たとえば僕の仕事には1パーセントも関係ないところだし、普段の生活においてさえも、ギターを取り出した瞬間に娘(束縛系:5歳)には非常に嫌がられ、向こうの部屋にいても走って来てギターのペグを回すのである。連鎖を組もうとした瞬間に2連鎖でお邪魔ぷよぷよを落とされるようなやり切れなさだ。その僕がちゃんとしたバンドメンバーを組んでお客さんの前で演奏できるというのだから、この機会を逸するわけにはいかない。
 
 ドラマーをかって出てくれたchihiroさんはとても忙しい人で、深夜になって帰ってきてなかなか子どもと一緒に遊べないと言っていた。この人なら音楽ができる時間の特別さを分かち合えると思った。メンバーとスタジオに練習に入ったのは1回、それ以外は当日の直前に1曲ずつ合わせただけだけど、chihiroさんが曲をちゃんと組み立ててきてくれたので、すごくスムーズに行ったと思う。なにしろ、曲を覚えてきてくれる上に叩き方も固めてきてくれるドラマーって僕は初めてだったもんだから、てまりと二人ですごく嬉しかったのだ。ティナのテーマはchihiroさんの気合いがすごく入っていて、お客さんからも「あの曲のドラムすごく良かったですよね」と言われた。僕に言わないで本人に言って欲しかったのでここに書いておく。それはキメ部分だけでなくて、曲全体へのイメージができていたから、どこをどういうノリでいくべきかというビジョンがあったんだと思う。
  
 僕の中では今回は脇役に徹するというテーマがあって、フロントはてまりに任せていたので、本当はMCもやりたくなかった。そうじゃないと友達のお姉さんに無理やりピアノを弾いてもらって出た高校生の学園祭みたいじゃないか。でも、ぜったい無理と言われたので仕方なくしゃべることにした。小学生のとき高橋名人が好きだった話とか、ピアノをやっていたせいで連射ができて「一郎(てまり弟)の姉ちゃんすげー」って言われた話とかすればいいのに。そうしたら毛利名人の方がイケメンなのに暑苦しい高橋名人が好きとかぶっ壊れてるよねと突っ込んだのに。

 

 僕はエレキギターを弾いているけど、パラメキア帝国ではほとんどバッキング(伴奏)というものをせず、メインメロディを弾いている。だから曲の最中で音量を上げ下げする必要が今までなかった。そして音色に関しても、オーバードライブの音ひとつだけで、クリーンのアルペジオなんかやることは無かったのだ。それが今回は両方やることになって、一番苦労したのが音量についてだった。歌を食うほどにでかい音で弾いていてはいけないし、リードになったらなったでいつも通り大きな音で弾かないといけないし…
 もうこれは別の楽器を弾いているイメージで行こう!と、まず自分の長らくのメイン楽器であったフライングVではなく、「目立たずギターを弾きたい時用」の最近買ったPRSのCustom24というギターで弾くことにした。また、エフェクターはいろいろ迷ったのだが、Marshall直結にした。迷った結果それか…と思うかもしれないけど、正直にやるのが一番だと思う。そして、ソロやリードの時だけアンプのセンドリターンにクリーンブースターを入れて、それを踏むことにした。これが劇的に音量が上がるので、アンプの方を小さくしておいて、ソロでガッと前に出ることができるようになった。これはものすごく便利である。…しかし、エフェクターそのものをふみ慣れていない僕は手で弾く以外にやることができてすごく混乱することになった。
 それに加えて、このPRSのCustom24はピックアップ(ギターのマイク部分)の切り替えがゴリゴリ回す式のスイッチになっており、とっさに変えることができない。しかも右回しでリアに、左回しでフロントになるという混乱を呼ぶシステム。これには閉口した。テキサスでブルースを弾いてるオヤジなら小指でちょいと回せるのかもしれないが、魔導師レベルの力しか持たない僕にはとても無理だった。本番でも回せなくて一曲目のソロをリアのままで弾いて高音が目立ち非常に気持ち悪かった。あと、ティナのテーマの間奏から元にもどるとき、ピックアップの切り替えがうまくいかずに、無理して回したらちゃんと弾けなかった。はらたつ。

 さて、そんな個人的なバタバタ感とはうってかわって、演奏全体を見たらけっこううまくいったのではないだろうか。それは良いメンバーに恵まれたということが一番大きいと思う。本番直前に、ろみさんが(彼のギターもPRSで)「ダブルPRSだから写真撮りましょう」と言ってきて、ああ…僕はこの人に無理して合わせてもらっただけじゃなくて、ちゃんとこのバンドで楽しんでもらえていたんだなと思ってジーンと来た。メタル者同士だけれど、たぶん二人とも今回のライブは体感メタル度5パーセントくらいだと思う。僕なんかギターもいつもと違うし、黙っていたら絶対メタルの人だと気づかれなかったと思うんだけど、どうなんだろう?なんで弾いた瞬間にメタルと思われたんだろう?
 
 1曲目、MotherのAll that I needed(was you)。この前に僕は紙芝居を朗読した。娘たちが寝たあと、真っ暗な部屋に電気スタンドをつけて、娘の絵の具を借用して描いたものである。さば夫さんがそれに合わせてMotherのタイトル曲を弾いてくれた。とっさにこういうことができるのは流石だ。僕はこのライブ中ずっとさば夫さんの横でギターを弾いていた。自分で前に出て弾こうと思っていたところにエフェクターが大量にあって(転換を早くするために他のバンドのエフェクターがステージに置いてある)、前には出られなかったんだけど、結果的には彼の横で良かったと思う。僕がバカなことを言い続けたMCの最中、ずっと笑っていてくれてすごく安心した。どんなにMCで外して客席が凍りついたとしても少しも寒くないわという気持ちになれた。ピアニストとしての技量に注目がいくけれど、やっぱり北海道から人がたくさん付いてくるのは彼の人柄あってのことだ。
 
 そんなさば夫さんのピアノが一番冴えたのは2曲目のティナのテーマだと思う。僕が作ったアレンジでは、ピアノは添え物のような感じだったし、どうやって弾くのか分からない楽器を無理やりやっているのですごく不自然だった。ピアノソロから始まるこの曲は、Fluffing Mooglesでやりたいと思ったことを一番ストレートに形にできたように思われる。そしてSugiさんが僕の作ったベースソロを弾き込んできてくれたのは嬉しかった。Sugiさんはこのバンドをやるに当たって、バンド全体の音像を俯瞰しながら音を出してくれた。スタジオ練習後に僕が音像やギターの分担などで相談した時も率直な意見をくれたのであった。さば夫さんが、ティナのテーマの中間部は雪が降っているイメージだからベースが動かない方が良いのではという意見を言っていた時も、じゃあそうやってみようかなという柔軟性。大人だ。
 MCでも言ったけれど、ティナのテーマはパラメキア帝国用にアレンジを作った後、お蔵入りになっていていつか演りたかった曲。十年前に作ったアレンジだけど、ジャンル的にはゴシックメタルを念頭に置いた感じ。リードギターとボーカルの兼ね合いも合わせて、こんなにライブでやって楽しい曲になるとは思わなかった。

 3曲目はカオスメドレー。なんでカオスかと言うと、一曲目がファイナルファンタジーのカオスの神殿で、そこからめちゃくちゃな展開が続くから。このバンドの曲決めはチャットでやったんだけど、みんな好きな曲、やってみたい曲があって、当然全部やるわけにはいかなかった。だから一人一曲ずつ全部入れてメドレーにしようと思ったのだ。一人ずつの思い出の曲がないとバンドとしてやる時に張り合いが無いもんねぇ。しかし、それぞれ全く違うジャンルの曲を普段聴いているし、通ってきたゲームも全然違う。かくして「本当にメドレーとしてつながるのか!?」という選曲になった。
 そして2曲目はろみさんリクエストのゼノギアス「飛翔」。ライブということで、原曲のオーケストラのイメージやリズムは一度おいといて、ボーカルをメインメロディに据えてノリの良いエイトビートに変えてみた。飛空挺の曲みたいな爽やかさになったと思う。
 3曲目はさば夫さんのサイバーコア(ステージ1)。このゲームには僕がPCエンジンを友達に借りたとき、シューティングの中でガンヘッドやスーパースターソルジャーよりもやり込んだ思い出がある。ゲー音部の飲み会でさば夫さんと話していたときに、「こんなゲームありましたよね」と言ったら通じて、「知ってる!?」と固く握手したのだ。僕ら意外にぜったい誰も知らねえと思って演奏したらお客さんの中に知ってて喜んでくれた人がいた。演奏ももちろん中学生の自分に届けるつもりでやるつもりでいたけれど、MCでしゃべったら反応があって、その人のために心をこめて弾こうと思った。この先、僕ら意外に誰も演らないんじゃないか…
 4曲目、Sugiさんリクエストのワギャンランド2ラスボス。これが高速変拍子を含む難しい曲であった。Sugiさんはアストゥーリアス好きなので本当はもっとプログレッシブにアレンジしたかったけど、練習時間とかメドレーの尺を考えたら無理であった。残念…。でも、この曲ではてまりのボーカルが無理やり乗ってくるところがとても良かったと思う。これをバンド演奏ソプラノボーカルありでやるのも絶対僕らだけだと思う。
 そして5曲目…chihiroさん推薦のソウルブレイダーエンディング「恋人のいない夜」。なんでこれで締めなんだ!というメチャクチャさ加減。作曲者タケカワユキヒデがCDで歌っちゃった曲である。ゲームソングによくある「ゲームと全然関係ない歌詞」なのだ。こういうのの困るところは特別にボーカルバージョンで収録!みたいなこと言っちゃってて、CD買った人がインスト聞きたいのにそれは入っていない…という。この曲をてまりが一所懸命練習してたのは笑った。

 メドレーが終わって最後の曲はテイルズオブファンタジアの「夢は終わらない」。これは僕がどうしてもやりたかった曲。これを聴いていると正体不明の胸に迫ってくる感じがあって、ああ、切ないってこういうことなんだなと思うのです。だからバッキングはものすごく凝って作った。ダンスビートな曲なので、Extremeみたいにノリの良いバッキングにしたかった。…が、この曲だけボーカルの声が普通の高さなので、マイクの音量が変わらないと歌がまったく聞こえない。リハでは、この曲だけボーカルを大きくしてと伝えたけれど、無理でした…。このバンドのボーカルは基本ソプラノ歌いなので、歪ませたギターでゴリゴリやってもそれを飛び越えていく音域なわけだけれど、これだけ普通の女の子ロックバンド的な音像が必要、ということだ。これはリハーサルをちゃんとやったり、ギターもちゃんと聞こえつつボーカルを邪魔しない弾き方にするアレンジを考えたり、改良の余地がたくさんあると思う。またいつかしっかりボーカルが聞こえる状態でやりたい。

 ボーカルに関しては、このバンドを考えた時から「ちゃんと歪んだギターとマッチするだろうか」という懸念があった。たとえばNightwishとかTherionみたいにソプラノボーカルとメタルバンドというのは存在するんだけれど、もちろん音響面では長いバンドの歴史の中で磨いてきたものだし、アレンジからしっかり練ってあるので、そういうことが僕らにできるのだろうか、と。ギターを下げればいいじゃんと思うかもしれないけれど、メタルリスナーにだけ分かる言い方をすると、ソプラノ部分に関してはNightwish、地声で歌う部分に関してはWithin Temptationみたいにやりたかったのさ。無理なことは無いと思うのだ。今後の改良次第で。
 そんな風にこだわるには理由があって、てまりのボーカルってただ高くて大きい音が出るとか、ゲームミュージック界隈で同じことをしている人がいないとかそういうことではなく、表現として魅力的だと思うのだ。僕は女性ボーカルの曲がすごく好きで、はっきり言ってシンガーについては「こうあってほしい」という理想がすごく高い。けれど、初めて同じステージを踏んだ仙台のライブハウスで、ああ、これは自分がギターでもがくのと同じくらいに、なんとかしてこの声を人に聴いてもらいたいなと思った。
 練習が足りない時の彼女の歌のひどさはそりゃーもう頭が痛くなるくらいヤバい。だけど僕みたいに夜起きて部屋で練習するわけにもいかないから、僕が娘ふたりを見ている間にCDを流せるカラオケボックスに行って、一所懸命練習していた。練習音源を聞かせてもらったけれど、今回あんまり聞こえなかったと思われる「夢は終わらない」もすごく良かった。

 総じて言うと確かに自分のギター演奏上の失敗や、アレンジを含めてもっとよくできたというところはいっぱいあったけれど、終わった瞬間に後悔よりも「いい音楽ができた」と満足できるバンド演奏は、僕史上たぶん初めてだと思う。それくらい今回は楽しいライブだったし、次への自信につながるいい体験ができた。
 Twitter上ではあんまり僕らの演奏に関する意見や感想って見なくて、メンバーからの感想だけな気がするんだけど、本番が終わって楽屋に引き上げたまさにそのタイミングで、このライブの主催をして今回燃え尽きるんじゃ無いかというくらい頑張っていたしんざきさんに「いやー、本当に素晴らしかった。ありがとうございます」と褒めてもらった。実感のこもった表情で言われて、僕がそう思いたいだけかもしれないけど、社交辞令じゃなく見えて…こんなに頑張っている人に言われるというのは、これは誇って良いことだと思う。
 そんなこんなで、いい気分になっていた僕は打ち上げ会場でFluffing Mooglesのメンバーに向かって、烏龍茶しか飲んでいないシラフの頭で「こんなこと言って変かもしれないけど、僕らって、けっこうカッコよかったんじゃないかな」って言ってしまった。
 
 唐揚げを食べながら、回ってきた会場アンケートに目を通していたら、こんなのが言葉があった。無断でこんなところに書いてしまってすみません。
「10年ぶりくらいに死神博士さんとてまりさんの音楽にふれて、なつかしくもうれしい気持ちになりました。今日は楽しかったです」
 ああ、本当にやってよかった。

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